グローバル・マーケティング研究会、イトーヨーカ堂の目指すもの


2013年4月24日、明治大学経営学部大石芳裕教授が主催される第65回グローバル・マーケティング研究会に参加して来ました。 この日はイトーヨーカ堂、三枝富博さんの「イトーヨーカ堂が目指すもの」、副題「成都IY15年の挑戦・・・お客様第一主義の理念のもと常に改善・革新へのチャレンジ」でした。 三枝富博さんは、現在イトーヨーカ堂常務執行役員、中国総代表。 45歳の時に成都での中国事業創設にたずさわれ、5年前の2008年中国政府の選ぶ最優秀経営者に外国企業からただ一人選ばれているとの事です。

中国事業の紹介、経営理念、戦略、人材育成など詳細に報告がありました。  それにも増して、実際の経営の現場を熟知されている三枝さんの一言一言が非常に印象に残りました。 いつもの様に報告後質疑応答の時間も、密度の濃いものとなりました。

今回は、三枝さんの言葉で特に私の印象に残ったものを取り上げます(私自身の記憶によるものですので、正確でない点があるかもしれません。 その点ご指摘、ご意見などいただければと思います)。

現場をちゃんとしようと思うほど、経営理念が重要である

16年に渡る成都での中国事業、その現場を何とかしようとなさった結論の1つが、経営理念。 改めて、企業の理念、経営理念の重要性を現場感覚でお話いただきました。  私自身、企業文化こそがグローバル企業の社内規範足りえ、それを導き出すのが経営理念と考えていますので、逆に「経営理念を現場に浸透させる」、その過程で企業文化が形成される、といった文脈で非常に納得させられました。

経営理念を経営幹部が共有すること、そしてけっしてブレないこと

現在日本人はサポートに回ってると語られる中で、「経営理念を経営幹部が共有する」とは、現地の人に経営理念の共有を求めるもの。 如何に大変なことであるか、想像がつきます。 が、それをやらないと企業として成功できない。 また、中国の変化の速さ、成長し続ける一般大衆に併せて、常に変えていかなければならない現場の運営に対して、経営理念を決してブレないものとして維持していくことの大切さ、大変さが示されていました。

自分たちが何者であるかを知ること

生半可なSWOT分析ではない迫力を感じました。 価格競争に入るか? ネットでの展開に走るか? どのように戦略を立てていくか? すべての局面において、真剣に「自分たちが何者であるか?」を問うていらっしゃいました。  これに関連して、「製造業はコストが上がれば、安いところに逃げることができる。 小売業は、逃げられない」との言葉も、非常に印象深いものでした。

本物を持って行かないと(中国市場では)負ける

現在の中国の変化の速さ、消費者の嗜好の変化の速さに関連しての発言です。 中国の変化の特色は、私達が、例えば過去20年かけて経験してきたこれまでの変化を極めて短期間に実現しているのに加えて、現在起きている世界の最先端の変化も同時進行的に先取りしている点にあります。 日本にいて、現在の変化の先読みに時間をかけすぎて変化できないでいると、到底中国市場で戦えないことになります。 こういった意味で「本物を持って行かないと負ける」とは、非常に深い意味を持ちます。

地域で勝てなければ、全国で勝てない

「自分たちが何者であるか?」に関連しますが、地域に密着した小売業であるがゆえに、その地域で勝てなければ、全国で勝てない。 成都で1400万都市、ここで勝てて黒字化しなければ、広大で、様々な特色を持つ巨大中国市場で展開し勝つことはできない。 中国市場を一つの市場と見て、一気に全国展開しようとする戦略に対するイトーヨーカ堂の答えでした。

この他に非常に興味深い分析が2つほどありました。

成都を世界の真中においてみる

自分たちが何者か? どう成都の都市生活者の変化に合わせて運営していくか?を考える際に不可欠の要素です。 ネットで南北を反転させた中国の地図は見たことがあり、如何に中国が湾岸部を包囲されているかが一目瞭然の地図でした。 今回、三枝さんが示されたのは成都を真中において、日本やシンガポールがその商圏の端っこに位置する地図でした。 成都からの海外旅行者数と併せて非常に印象深い地図でした。 ちょうどGoogle Earthでやってみるとこんな感じでした。
中国四川成都

都市人口一人あたりのGDPを比較してみる

これまで国の人口一人あたりのGDPを比較してみたことはあり(2007年3月)、それはそれでいろんな発見があったわけですが、今回三枝さんが提示されたのは、 都市人口一人あたりのGDP,そしてその将来の予測でした。 消費者が都市化することによる早い変化に対応しようとする非常に優れた分析手法で、初めて眼にするものでした。 これから様々な事を考えるのに、是非とも利用させていただきたい分析手法でした。

次回のブローバル・マーケティング研究会は5月17日、日本コカコーラ副社長の鈴木祥子さんの「コカ・コーラのグローカライゼーション」についての報告です。

グローバル・マーケティング研究会 クアルコムはグローバル競争を如何に闘うのか?


2013年2月22日 明治大学経営学部大石芳裕教授の主催されるグローバル・マーケティング研究会に参加してきました。 今回、第63回は「クアルコムはグローバル競争を如何に闘うのか?」と題して、クアルコム・ジャパンの特別顧問(元社長)山田純さんの報告でした。  クアルコムは、無線通信技術に関する研究開発とライセンス、半導体およびソフトウェアの販売を主な業務とする会社で、株式時価総額で2012年11月にインテルを抜き、IT(情報技術)機器の主役がパソコンからスマートフォンに移りつつある象徴的な出来事と話題になっていました。

山田純さんの報告は、会社の生い立ちからその歴史、現在のビジネスモデル、携帯電話からスマートフォンヘ、その中で起こっていること、さらに今後のクアルコムの戦略と、簡潔で非常にわかりやすい内容でした。

携帯電話からスマートフォンへ

どうしても2006年のApple iPhone の世界での発売から、 iOS とGoogle の提供するアンドロイド、メーカーとしてのApple と サムソンと言った対立軸でこれまで考えがちである「携帯電話からスマートフォンへの移行」ですが、今回山田さんのお話で明らかにされたのは、無線通信技術の進化と半導体(CPUチップ)と言った視点からのこの移行期の説明でした。 私個人的には、新しい視点が加わったことによって、より世界で何が起きているかが明らかになりました。 そしてこの世界で、かつて電機メーカーで起こったデジタルへの移行後のものすごい勢いでの商品・技術のコモデティ化が進行しています。 印象深かったのは「チップが搭載され一体形成された基盤に、カバーをつければ、それでスマートフォンが出来上がってしまいます」とそこまで汎用品でスマートフォンができてしまうようになっている現実でした。

今後の戦略、何故自らの得意分野に集中して勝負しないのか?

これについては、報告後に質問させていただきました。 歴史的に会社の生い立ちを見ても、また現在のビジネスのポートフォリオを見ても、クアルコムが無線通信技術に強みを持つ会社です。  「Apple の部品は全て特注品であるから、高い価格で納品できる」とは、2011年11月にこのグローバル・マーケティング研究会でご報告いただいたTDK多米通浩さんの言葉です。 これに対して、汎用品で製品を作っているのが、アンドロイド陣営です。 低価格化を支えに、アンドロイド製品が世界的に普及していくのが現実です。 しかし、ここで勝負していくのでは限界があります。 おそらくAppleは今後も独自の道を突き進んでいくのでしょう。 クアルコムも独自の道を進んでいくやり方があるのではないか? と考えています。

今回の研究会の様子は、グローバルマーケティング研究会のサイトの多くの写真がアップされています。 また、次回の研究会は3月22日、博報堂宇都宮毅さんの報告が予定されています。

グローバル・マーケティング研究会 コマツのグローバル戦略

2013年1月15日、グローバル・マーケティング研究会に参加してきました。 今回は”コマツのグローバル戦略ーグローバル・チームワークで働くこと”と題して、コマツ顧問日置政克の報告でした。 明治大学経営学部大石芳裕教授の主催されるこの研究会も今回で第62回となります。

日置政克さんは、コマツで人事部門を専門に35年以上勤められています。 今回は、以下の内容を豊富な資料と共に報告されました。
1 コマツの概要
2 コマツのグローバル経営
3 コマツウェイ
4 グローバル展開に伴う人事上の課題・視点

今回印象に残ったのは、以下の点でした。

経営の現地化を学ぶ

1980年代にアメリカでジョイントベンチャーを立ち上げた際に、アメリカ的な経営方法をしっかりと学んだ上で、それが現在のコマツの経営に生かされています。 日置さん曰く、実現するのに15年かかりました、とのこと。 よくコマツの経営、人事組織はアメリカ的であるなどとも言われますが、経営の基礎たる部分をしっかりとアメリカでのジョイントベンチャーから学んでいて、それを取り入れています。 もちろんそれを実現するためには”経営者のしっかりした後押しがあった”のも事実です。 またこれがあったからこそ、コマツのグローバル化を、ローカルの集合体がグローバルである、とか お互い違いを理解し、認め合うことからスタートする、など深い理解につながっているように思えます。

コマツ・ウェイ

2006年からとのことですが、しっかりとした行動規範が定められています。 “それまでコマツのやり方として実施されていたことを明文化した”とのこと。 またそれが、2012年には海外の社員の声を反映してよりわかりやすく改訂されています。 幾つかのグローバル化を目指す日本企業も行動規範を定めようとしていますが、コマツのようしっかりしたものになっていません。 どうしてもおざなりに作成されたり、会社の文化と呼べるほど浸透してないのではないでしょうか? その点、コマツの場合は、社員の行動規範として、企業文化と呼べるレベルになっています。 文化や社会背景が違う世界で事業をやって行く場合、そしてダイバーシティに敏感であるほど企業文化の確立が求められます。 それをコマツが実現しているのが、現在のコマツの強さを示していると感じました。

コマツ・ブランドの構築

現在コマツ・ブランド・マネージメントがマーケティングの取り組みとして行われています。 コマツとして、ブランドを構築して行くことによって、より高い価値を顧客に提供して行こうということで始まっています。 ブランドマネージメントは、顧客の認識をどのように変化させていくかの問題ですので、今後この活動がコマツの社内で活発化して行くことによって、これまでローカルに重きをおいていたマーケティング活動が、よりセントラルでのコントロールを必要としてくると言った変化を予想させます。 是非ブランド・マネージメントを成功させていただきたいと思いました。

次回のグローバルマーケティング研究会の日程は現在のところ確定していません。 今後、グローバル・マーケティング研究会のブログなどでご確認ください。

グローバル・マーケティング研究会 インテルのグローバル・マーケティング

2012年8月7日、グローバル・マーケティング研究会(明治大学経営学部大石芳裕教授主催)に参加してきました。  今回は、傳田アソシエイツ・代表取締役 傳田信行さんの「インテルのグローバル・マーケティング」と題しての報告でした。  傳田信行さんは1968年から1998年まで30年以上にわたりインテルに勤務、アメリカでの副社長を経て、インテル日本法人の社長を務められました。

報告は、インテルの創業者・経営者の理念、インテルの変遷、品質基準、Intel inside Program, インテルのビジネス戦略、販売戦略、さらにCSRといった流れに沿って、その内容は経営者としての経験、判断など深く非常に多肢に渡るものでした。  報告後の質問も途切れることなく1時間があっという間でした。

今回の報告を聞きながら、改めて考えさせられたのは、1980年代、90年代の世界標準(特にアメリカ企業を中心とした)の流れでした。

まず日本について考えると、1945年の第二次世界大戦の敗戦後、人口71百万人から1964年の東京オリンピック、1970年の大阪万博を経てバブル崩壊前の1990年に人口123百万人、この間「安かろう、悪かろう」から品質の向上に努め, “Japan as Number One: Lessons for America” がEzura. F. Vogel によって書かれたのが1979年、広く日本の経済、社会制度が再評価されました。  官僚組織、特に大蔵省や通商産業省の強い経済界に対する関与によって日本の競争力が高まっていると肯定的に評価された時期です。  トヨタのカンバン方式やカイゼン活動が注目を浴びていました。

1980年代は、クオリティ・コントロール、卓越した顧客サービス、顧客満足度の向上の時代でした。  これらが世界標準として取り上げられました。  アメリカでは1980年代半ば、ボードリッジ・クライテリア Baldrige Criteria 及びそのアワードがアメリカ・ビジネスの競争力を高めるために設定されました。  前職、アメリカン・エクスプレスで80年代後半から90年代初めによく話題にしていました。  そのボードリッジ・クライテリアの詳細につては、こちらをスタートとして知ることができます。

1990年代は、選択と集中、本業と本質的に関係ない組織は大胆にカットされました。 これに伴い、リエンジニアリング、アウトソーシング、ブランドの再構築、組織の平坦化の時代でした。 顧客満足度の向上に加えて、社員の満足度の向上が、経営者、マネージメント、一般社員までの勤務評価基準の加えられました。  組織のサイロ化が問題とされ、ビジネスの結果を出すためサイロを取り払ったチームワークの重要性が説かれました。  また、変化への対応の重要性が求められ、常にイノベイティブであれ、と説かれたのもこの時期です。  人事評価はクロス・マトリックスをベースに、上司に加えて部下、同僚、取引先を含めた360度評価となりました。  企業間のM&A も盛んでしたが、企業文化の同質性がM&A 成功の鍵と考えていました。

重要なのは、これらの世界標準基準が単発のプログラムとして消えてしまうのではなく、現在も経営の根幹として使われ、人事評価の基準として取り入れられていることです。   そのほとんどが重畳的に重なって現在も使用されています。

2000年代については、インターネット関連の発達を抜きにしては考えられません。  改めて、別に詳しくみて行くつもりです。  が、アメリカで商用インターネットが開始されたのが1988年、日本では1991年。  Windows 95 の発売(1995年)によってインターネットの利用が本格化しています。   ウェブ・サービス(WWW)は1990年に開発され、日本で利用が開始されたのは1996年。  ブログは1999年からで、WordPress は2003年5月に公開されています。  Twitter は2006年7月に発表され、2008年に日本語化されています。  Facebook は2004年にハーバード大学で利用開始され、一般公開されたのは2006年9月、日本語化されたのは2008年です。  これに2007年に発表されたiPhone , 2010年5月に発売されたiPad が新しい波を起こしています。  これらの新しい流れが、ビジネスに大きな影響を与えています。

次回のグローバル・マーケティング研究会は9月28日 「ヤクルト海外事業の再建」と題して、元ヤクルト専務取締役国際本部長 平野博勝さんの報告です。

グローバル・マーケティング研究会 グローバル・ブランドを支えるCSを目指して

すこし前になりますが、2012年7月5日、明治大学経営学部大石芳裕教授の主催されるグローバル・マーケティング研究会に参加してきました。  今回はシャープ株式会社、常務執行役員 東京支社長、林 元日古さんの「グローバル・ブランドを支えるCSを目指して」 「~日経ビジネスCS(顧客満足度)調査3年連続NO.1 顧客価値創造取り組みをグローバルへ~」と題しての報告でした。

実際に林さんは東京支社長以前に、サービスと品質を共に管理されるポジションでこの顧客満足度の向上に取り組んでこられ、「日本流のCSがグローバルに通用するのか」との問題意識や、随所に顧客満足向上の経営側からの判断、本音が飛び出し、非常に聴き応えのある報告でした。

まず、経済産業省の産業構造審議会新産業構造部会の報告書(2012年6月)に触れられ、それから、電気産業界の現状を分析、その後
1.価格競争から、ブランド価値向上を目指して
2.ブランド価値向上の必要性
3.CSのグローバル展開
4.終わりに
と、最後にグローバル展開するための人材育成、評価システムに付いて説明がありました。

特に印象に残ったのは、以下の点です。

簡単、見やすい、判りやすい

今回、改めて経済産業省の産業構造審議会、新産業構造部会が作成した新経済ビジョンの概要を読んでみました。  が、複雑、解りにくい、見難い。

いろんなところで目にして、私の信条としているのは、
1, Simple 簡単
2, Visible 見やすい
3, Understandable 判りやすい、です。
非常に重要な事で、どんなに複雑で、難しく見える問題や、例えば会社の経営戦略や、ある年度のビジネス・ストラテジィーであっても、それを簡単で、見やすく、判りやすく、おそらく5つぐらいの箇条書き(ブレッド・ポイント)で表示できなければ、それはまだ考慮が足りないか、そもそも戦略や問題解決の答えを見つけ出せていない。  そう判断されても仕方ないでしょう。  人に、簡単に、見やすく、判りやすく説明できてこそ、国家や会社全体、ビジネスに係るチームが一丸となって、共通の理解のもとに、その方向性に進んでいけるのではないでしょうか?  複雑で、解りにくいが故に、様々なポジションを取る人が、勝手に自己流で解釈してしまう余地があり、自分勝手に判断、行動してしまうようでは、組織全体を一つの方向に導けません。

顧客満足は、経営戦略

顧客満足を、経営戦略の一つとしてしっかり位置づけ取り組んでいくか?  少なくとも、私が勤務していたアメリカン・エキスプレスでは、取り組むべき経営指針の第一番目が顧客第一(Customer first)でした。  この考え方があるからこそ、リッツカールトン・ホテルで取られている、従業員第一、卓越した従業員が一番重要である、との考え方が成立します。  これは経営の優先順を明確にし、卓越した従業員のサービスこそが、真の顧客満足を生み出し、顧客がリッツカールトンに売上と利益をもたらしてくれるというものです。

経営戦略や経営指針で、「すべてのステーキ・ホルダーの満足を目指す」とするのをよく見かけますが、これは、経営戦略が決まっていない、熟慮されていない、優先順が決められない、と判断されても仕方ないのではないでしょうか?

次回は、8月7日火曜日、元インテル株式会社社長、米国本社副社長、傳田信行さんの報告です。